『資本主義の文化的矛盾』ダニエル・ベル

おそろしく博識で、しかもおそろしく凡庸な本。

ただし、著者の分析も主張も論旨も間違ってはいない。むしろ、「何も間違いがない」ことが、問題なのだ。概ね「正しい」ことしか書かれていないので、退屈かつ平凡に見える。
 目がさめるような認識、変態的なまでに執拗な探求、暴力的なまでの理論的圧縮。わたしが理論的著作に求めるのは、そのようなものなので、やっぱりこの本はダメだな。

でも、参考資料としては、一級品、とも言えるので以下「千夜千冊」より引用。

主題は、

政治が「公正」(justice)を追求すること、経済=技術が「効率」(efficiency)を追求すること、そして文化が「自己実現」(self-actualization)ないしは「自己満足」(self-gratifization)を追求することのあいだには、ぬきさしならない矛盾が生じている

近代では「超越」(beyond)が終わって、それに代わって「限度」(limit)が求められる

現代の特色(1970年代以降の社会)とは、

第1に、話法が分裂している。これは現状に対して統一した見方が失われているからである。第2に、したがって経験の様式が一定しない。第3に、そのような現状を報知するメディアが話法ごと、見方ごとに多様化していく。
 そうなると第4に、需要した情報のちょっとした組み合わせのちがいだけで社会の中の相互作用がまことに複雑化する。そして第5には、そのちょっとしたちがいの一つ一つに自意識が居座る理由ができてしまい、そのため第6に役割と人間性とのあいだにものすごくギャップができて、これらを通観するには第7に、社会的流動といった怪物がそこをゆさぶっている

その結果、どこにも中心がなく、どこにも過去のない、けれどもどこにもアイデンティティがある現在」がいっぱい並立する

そこで、現代の問題点は、

1.解決不能の問題だけが問題になる病気
2.議会政治が行き詰まるから議会政治をするという病気
3.公共暴力を取り締まれば私的暴力がふえていくという病気
4.地域を平等化すると地域格差が大きくなる病気
5.人種間と部族間の対立が中からおこっていく病気
6.知識階級が知識から疎外されていくという病気
7.いったん受けた戦争の屈辱が忘れられなくなる病気

以上、引用おわり。