ポール・クルーグマン『資本主義の幻想』

目次

アメリカ経済に奇跡は起こらない

 需給のバランスと中央銀行のよるインフレのコントロール→求人率と失業率は、密接に関係している

オークンの法則(成長率と失業率)=2.4%が成長の限界という経験則、

潜在成長率=労働力と生産性の成長率

・資本主義は、生産力過剰に陥っているか

①グローバルな生産力の拡大→むしろアジア諸国は輸入超過に陥っている
②先進国の需要不足→所得の増加とともに消費性向も上昇している
新興市場圏の経済成長は供給過剰に貢献している→新興市場の賃金も上昇しており、内需の拡大が十分に見込める

・「景気循環の消滅」説に反論する

産業革命以前と以後では、別世界。信用の収縮という新たな事態がそれ以降生まれる。そのため、景気循環は繰り返される宿命にあり、それはこれからも変わらない。

・二十一世紀は、再びアメリカの世紀になるか

ニューエコノミー論は、所詮、景気循環の好局面にあり、インフレを低くとどめる一時的要因、それにおそらく労働者の交渉能力を低下させた労働市場の変化、その結果として賃金上昇を加速させることなく得られた雇用拡大によってもたらされたものにすぎない。(→むしろ、限界的な労働者の苦境に配慮せよ)

また、そもそも生産力の優位といっても、作られた物は必ず需要されねばならず、世界的な需要の増大なしにアメリカの成長もまたないことを思い出すべき。その点で、欧、米、亜に大差はない。

第三世界の成長は第一世界の脅威となるか

第三世界の競争力が西側諸国の所得の「分配」に影響することはあっても、所得の「水準」に影響する謂われはない。

また、1990年に先進国が新興国の工業製品の輸入に支払った額は、先進国全体のGDPのわずか1.2%に過ぎない。また、国民所得のうち労働によるものが70%以上で資本によるものが30%以下なので、賃金の上昇率と生産性の上昇率はほぼ比例している。そして、これは新興国でも同じ。

世界の産出量の上昇分は、必ずだれかの所得の伸びとなって現われるという原則を銘記すべし

第三世界からの悪影響とは、第三世界の賃金が低水準に留まり続けるが故に脅威だからなのではなく、むしろ、賃金が上がり、輸出品の価格が上昇することにある。また、そうしたマイナスの影響はすぐに経済統計、すなわち輸出入価格品の比率である「交易条件」に現われる。

93年の新興市場国への資本流出は、第一世界の国内投資のわずか3%程度で、資本ストックの伸び率への影響は0.5%にとどまる。

確かに、未熟練労働者は、新興国からの輸入によって職を失い、所得の水準が低下し、また熟練労働者との所得の格差が広がる可能性はある。しかしそれは、いまだ実証されていない。むしろ、隠れた保護主義に気をつけろ。

・新しい成長神話と新興市場バブル

ワシントン・コンセンサス=自由主義的・自由貿易イデオロギー
メキシコ通貨危機新興市場バブルの崩壊→現実によってイデオロギーは批判された!

・グローバル経済にケインズ政策は有効か

循環的な失業と構造的な失業を区別すべき→なぜなら、構造的なものの場合、財政拡大では解決しないから。

国際的政策協調は長期的には機能しないという現状認識

ほとんどすべての欧米各国(日本は言うまでもなく)の国民所得に対する債務の比率は、歴史的に見ても大規模な戦争の末期だけに見られるような水準にある! 

・国の経済は企業とどう違うか

部分均衡と一般均衡の差からくる誤解について

国家経済という非常に複雑な組織を運営するには、直感や戦略は通用せず、一般原則が必要になる

閉鎖系=資源制約が課されている状態→ある主体の行動は他の主体の資源を奪うことになる。つまり、代替的・競合的でネガティブ・フィードバックを生じやすい

開放系=資源制約のない状態→資源制約がないため、各主体の行動は、補完的・共同的になり、ポジティブ・フィードバックを生じやすい

一般均衡論は実物経済中心の経済体系であり、最終的に経済成長を決めているのは生産活動という考え方。また、実物面での生産能力はそれほど早く変われるはずかないし、変わろうとすれば摩擦が伴う、また生産資源上の制約がかならずかかってくる。ある部門の成長が資源をその部門に移転させることになるが、その結果、他の部門から資源が流出していくことになり、他の部門の成長を低下させるということがありうる。