『ヘーゲルの精神現象学』金子武蔵 ちくま学芸文庫

タイトル通りの本だが、とても丁寧かつ詳細な解説書。ヘーゲルの入門書としては、とても良書なのではないかと思う。
 「実体とは主体である」という主題、カントの二律背反からヘーゲル弁証法へ移り行き、個別−特殊−普遍の運動、主人と奴隷の承認を巡る相克、キリスト教の「受肉」と三位一体、本書が認識論序説であり精神哲学であり歴史哲学であるということなどなどヘーゲル哲学のエッセンスが、平易な語り下ろしの口調で解説されており、よく理解できた。
 『精神現象学』の目次どおりに、順々に解説されているので(というか、ヘーゲルの哲学自体がそういうプロセスを「本質的に」要求するのだろうけども)、原本を読むときに副読本として使えそうだ。

それにしても、なんでもかんでもすべて弁証法のダイナミズムで強引に説明しきってしまおうとする、そしてほとんど暴挙としか思えないその無謀な試みが、かくも魅力的に見えてしまうのはなぜなのか。日頃、わたしたちが断片的な情報ばかりに接している、また接さざるをえないからだろうか、それとも、断念したはずの体系性や全体性を人に想起させるからなのだろうか。

野暮ったくて壮麗な、ヘーゲル哲学!